近年、介護施設で深刻な課題となっているのが離設という問題です。
離設とは、施設に入居している高齢者が、スタッフに何も告げずに無断で施設の外へ出て行ってしまうことを指します。一見すると単なる迷子のように思えるかもしれませんが、認知症を患っている方にとっては命に関わる重大な事態を引き起こす可能性があります。
では、なぜ彼らは施設を出て行こうとするのでしょうか。多くの場合、当事者には明確な目的や理由が存在します。もっとも代表的なものが帰宅願望です。「家に帰って夕飯の支度をしなければ」「子どもが学校から帰ってくるから」といった、過去の記憶や責任感が突如として蘇り、自分の家へ向かおうとするのです。また、自分が今いる場所がどこか分からず、強い不安感から安心できる場所を求めて外へ出てしまうケースも少なくありません。
さらに、過去の習慣が影響していることもあります。毎日決まった時間に散歩をしていた方や、長年通勤していた方は、その時間になると無意識のうちに外へ向かってしまうことがあります。彼らにとっての離設は、目的を持った行動であり、決して理由のない徘徊ではありません。
施設側は、単に行動を制限するのではなく、「なぜ外に出たいのか」という背景にある心理を深く理解する必要があります。ご本人の声に耳を傾け、一人ひとりの人生の背景や不安な気持ちに寄り添い、ここが安心できる居場所であると伝えていくことが、離設を防ぐための大切な第一歩となるのです。問題解決には、相手の心を理解しようとする姿勢が欠かせません。